Ino_noosの自転車遍路の記録

還暦のオヤジが自転車で四国をお遍路しました。その記録を記します。

まとめ(5)=コスト、ホテル=

まとめ(4)から続く。

今回は、Ino_noosの自転車遍路の記録としては最終回。

コスト。

札所関係53,160円、ホテル代124,440円、交通費68,800円、食費78,620円、その他35,057円、合計360,077円。札所関係とは、納経料、賽銭、御朱印(白衣)、お守り代、入場料など。交通費は仙台―四国の往復新幹線の運賃も含む。その他は、お土産、湿布などの医薬品、自転車の保守部品、洗濯代など。

これを総日数27日で平均すると、13,337円/日。ただし、往復の新幹線の運賃、今治で買ったお土産代を除くと、つまり四国遍路の費用としては287,567円で、やはり27日で平均すると10,650円となり、ほぼ10,000円/日の計算となる。これってボクが若かりし頃バイクでツーリングしていた当時の費用とあまり変わらなかったりして。もちろん内訳は異なるだろうけど。

 

宿。高いホテル代ベスト3は、1位ホテルルートイン紀の川7,000円、2位岬観光ホテル6600円、民宿とうの浜6,500円。ただしルートインと岬観光ホテルは素泊まり、とうの浜は2食付。

安いホテルベスト3は、1位ホテルtabist高松3,100円、2位ゲストハウスさくら庵3,580円、3位民宿鈴3,700円。なおさくら庵は朝食もついてこの値段。ホテルtabist高松は台風6号の避難のために確保した宿で、もし台風が来なければたぶん利用しなかったであろう宿。

ホテル満足度ベスト3は、1位日和佐のゲストハウスさくら庵、2位志度のいしや旅館、3位は同着でサウスブリーズホテル高知海月と城山温泉。

ゲストハウスさくら庵

いしや旅館

城山温泉

特にさくら庵は古民家を改装した建物にも満足だが、これに加えて女性のご主人のホスピタリティが抜群で、たった一人で切り盛りしているにもかかわらず懇切丁寧にアテンドしてもらったし、営業時間外にも関わらずマッサージまでしてくれた。ここ毎晩泊まってもよい。無理な話だけど。

2位のいしや旅館は国の登録有形文化財で、純和風のしっとりした雰囲気が素晴らしかった。3位のサウスブリーズホテルは部屋に自転車を入れることを許可してくれた最初のホテルで、かつ大浴場もあり快適だった。同じく3位の城山温泉は温泉から瀬戸大橋を望める絶好のロケーションに加え、ホテルスタッフのフレンドリーな対応も嬉しかった。道中通してホテル代は平均4,785円、まあ悪くないほうだと思う。

泊まった宿の種類は、ホテル&旅館は19泊、民宿5泊、ゲストハウス1泊、カプセルホテル1泊。客同士の情報交換やコミュニケーションには民宿やゲストハウスが良いのだろうが、ボクはこれ苦手なのよね。従ってホテルを多く選んでしまった。しかし宿坊には1泊くらいしてみたかったなあ。

 

まとめのつもりが長くなってしまったが、これにてIno_noosのお遍路記録おしまい。最後まで読んでいただき、ありがとうございました。最後の最後に、この記事が今からお遍路する人の参考となれば、これほどうれしいことはない。では、皆さまごきげんよう

まとめ(4)=自転車、疲労回復作戦=

まとめ(3)から続く。

自転車は、エンメアッカさんでオーダーメイドしたクロモリフレームをベースに、ワンバイエスのカーボンフォーク(エンメアッカさん推奨)、前後ホイールはフルクラムのレーシング4、コンポはカンパニョーロコーラスとシマノアルテグラのミックス、ディスクブレーキはワイヤー引きのAVID bb7sという構成。

Fフォークは納品時は艶消し黒だったが、ウレタンクリアを厚塗りしてツルピカに仕上げた。手前みそだがイカしていると思う。鏡面のほうが汚れが付きにくいし。

変速はフロントワンバイで、お遍路仕様として36Tを組んでいる。一応釈明すると普段は42Tを組んでいる。リアは11速で11-34T。

エンメアッカさんのクロモリフレームは、フレームとしての剛性と踏み込んだ時のしなりすなわち弾性を、高い次元で両立した素晴らしいフレームだと思う。実際ポンコツのボクが約1か月にわたり毎日毎日走り続けることができたのは、このしなやかなフレームによって、脚のダメージが小さく済んだからではないかと思う。改めてエンメアッカさんに感謝したい。

自転車のトラブルとしては、予想以上にディスクパッドが減ったこと。予備は1セットしか準備しなかったので、松山でパッドを求めて駆けずり回ることになった。それにしても、なぜ予備を1セットしか持たなかったのだろう?

リアキャリアはシートポストに取り付けるタイプで耐荷重10㎏に対して8~10㎏の荷物だったので不安だったが、特にトラブルはなかった。これもフレームがクロモリだから。カーボンだったらこんな重量物怖くて積めなかった。ただし、荷物を積むと重心が後側に偏ってしまい、ダンシングするとハンドルがブレまくって危険だった。

パンクはなし。ポンプアップは高知市今治市の2回だけ。タイヤはパナレーサーのアジリスト ライト 700×28C。ディスクブレーキには太めのタイヤがマッチすると思う。チェーンの清掃と給油は3~4日毎。洗車はウエスで拭く程度だがほぼ毎日。

 

疲労回復作戦。今回のツアーで最も心配されたのが毎日走れるのかということだった。何しろボクは1日ロングライドすると回復するのに3日かかるというポンコツだし、事前にトレーニングするにしても、せいぜい3連休の3日連続までで、それ以上は未知数だったのだ。

対策としては疲労回復のサプリ、リカバリーウエア、ストレッチング、温冷交代浴、早寝早起き等色々やったが、ストレッチングが最も効果があったように思える。

1日走ってガチガチにこわばった筋肉を伸ばしてあげると気のせいか軽くなったように感じる。さらに股関節の可動域を広げるストレッチングを行うと、つま先の血行が良くなりぽかぽかした感じになる。

疲労回復には血行を良くすることが肝心なので、これが効いたと思う。というわけで、毎日1時間近くかけてゆっくりじっくりストレッチングを行った。この効果か毎日40~100㎞走れた。暑さでグロッキーにはなったが、脚が疲れて漕げなくなるということはなかったと思う。もちろん、上で述べたエンメアッカさんのクロモリフレームに支えられたことも忘れることはできない。

まとめ(5)へ続く。

 

 

 

 

 

まとめ(3)=コース,天候=

まとめ(2)から続く。

コースということで、激坂、サイクリングコース、絶景を述べる。

激坂勝手ランキング。ベスト3は、1位60番横峰寺、2位27番神峰寺、3位66番雲辺寺横峰寺は距離、勾配、獲得標高どれをとっても最強で上り切った後の満足感が最も大きかった。

60番横峰寺

神峰寺は距離は短いが勾配がスペシャルで、しかも海抜ゼロメートルから一気に400mまで上るというロケーションがまた格別。

27番神峰寺

雲辺寺は札所最高の標高で距離も長く、その分勾配は緩いだろうと甘く見ていたがさにあらず、なかなかもって大変な激坂だった。

66番雲辺寺

4位5位は20番鶴林寺と12番焼山寺。「1に焼山2にお鶴…」と言われるのは歩き遍路だとは思うが、自転車でもその名の通りの激坂だった。

なお12番、27番、60番は荷物を宿に置いてアタックしたので作戦勝ち、20番と66番はルート上この作戦を取れずフル装備でアタックしたので見た目以上にきつかった。

番外としては33番禅師峰寺、35番清滝寺、58番仙遊寺、84番屋島寺。距離は短いが勾配が強烈で歩くくらいの速度でしか上れなかった。加えて屋島寺は猛暑もありまるでサウナの中で漕いでいるようだった。

念のために記しておくが、舗装路で自転車を押して歩いたことは一度もない。途中写真撮影と称して休憩ばかりしてたけど。

 

おすすめサイクリングコースベスト3は、1位しまなみ海道、2位四万十川沿いのR381→R441、3位神山町焼山寺→県道43号→藤井寺

しまなみ海道

R441四万十川サイクリングコース

徳島県県道43号掘割峠

しまなみ海道は、あえて言及する必要もなくサイコーの一言、四万十川窪川側から攻めるのがポイント、掘割峠も逆打ちで攻めるべき。順打ちすると血を見ることになる。

 

絶景ベスト3は、1位60番横峰寺奥の院星が森からのぞむ霊峰石鎚山、2位66番雲辺寺からのぞむ観音寺市と瀬戸内海、3位足摺岬(の手前)の朝日。

60番横峰寺60番奥の院星が森

66番雲辺寺から瀬戸内を臨む

足摺岬の手前R321からの朝日

 

天候。雨は5回。高知34-36番間、愛媛内子-45番間、香川城山温泉の手前、香川86番―高松間、徳島1番―徳島フェリー港間。特に最後の徳島は超猛烈な雨で、四国三郎橋走行中はマジで死ぬかと思った。

その他の日は晴れが多く、連日35℃以上(体感だけど)の猛暑だった。直前トレーニングで直射日光に体を慣らしておいたのでこの程度で済んだが、いきなりだったら皮膚の炎症と熱中症が深刻だったと思う。

統計的に四国地方の8月は雨が少ない。梅雨の7月と秋雨前線の9月に狭間だからだ。ここは狙い通りだったと思う。なお、さらに雨が少ないのは11月~5月にかけて。しかし冬場は標高の高い札所は積雪する場合があり危険。春秋は天候もよく気温も良くおまけに景色も良い(春はお花、秋は紅葉)が、皆さん考えることは一緒なので非常に混雑すると予想される。ということでいつ行くかは悩ましいテーマである。

 

まとめ(4)へ続く。

 

 

まとめ(2)=日数,札所,季節,打ち順,距離=

まとめ(1)から続く。


日数は2023年7月17日から8月12日までの27日間。仕事(出張)以外で、個人旅行としては人生最長の旅となった。このうち7月27日と8月8日は完全OFF、8月7日は台風避難で13㎞だけ、なのでこの3日を除いて、実質走ったのは24日間とカウントする。

 

心に残った札所ベスト3は、1位21番太龍寺、2位60番横峰寺、3位27番神峰寺。いずれも山寺で、荘厳かつ静謐な雰囲気漂う境内は、参拝を終えても立ち去りがたい気持ちになった。

21番太龍寺

60番横峰寺

27番神峰寺

太龍寺は西の高野と言われる理由が分かったこと、とても美しく管理された境内であること。横峰寺は境内も気高いがなんといっても奥の院星が森だ。ここは絶対に外してはいけないポイントだと思う。神峰寺は非常に美しく整備された境内、海を見下ろす絶好のロケーショが良かった。スマホ水没事件の現場でもあるし。ちなみに4位は88番大窪寺5位は38番金剛福寺大窪寺は結願寺としての貫禄が漂い、金剛福寺は40年ぶりの再訪ということでランクインした。以上勝手ランキング。

 

季節。ボクは真夏だったが、夏のメリットとしてはどこ行っても空いていること。デメリットとしては耐え難い暑さに尽きる。

お遍路は年間20万人といわれるが、年間50週として単純に毎週4000人は四国のどこかにいる勘定になる。しかしボクの場合、札所でダブった人は多くても数人で、誰もいないケースも少なくなかった。つまり毎週4000人のイメージとは合致しない。

ということは、夏は(多分冬も)空いていて、その分春秋に集中するのだと思う。春秋は景色もいいしね。しかし景色が良いといっても一つの札所に10~20人がてんでに読経してたら正直いやだなあ。宿の予約も難しそうだし。

もう一つ言うと、8月は統計的に割と雨が少ないという事実。一方8月はお盆休みや阿波踊りよさこいもある。う~ん悩みは尽きない。

 

打ち順。ボクは準備編で述べた通り一桁札所を後回しにして、かつ逆打ちするという変則的な打ち方をした。これはルート上の合理性を求めた結果だったが、結論としてはイマイチだった。理由は、やっぱり88番で結願ってのが満足感を得られること、ルートの合理性と言ってる割に迷子になることが多く相当余計な距離を走ったこと、をあげる。やっぱり大人しく順番通りにやれってことだね。ちなみに若かりし頃はバイクで日本中ツーリングしたが、あまり道に迷った記憶はない。ということで今回も道に迷うことはないと自信を持っていたのだが、ボクの方向感覚もさび付いてしまったようだ。

 

総移動距離は1803.3㎞。実績は以下の通り。紫の太線は自転車で走った軌跡。間隔があいている部分は電車でワープしたところ。

1803.3㎞はスマホで記録したRide with GPSのデータ。これは自転車に乗っていない部分、すなわち境内を歩いている時や一部の電車やロープウエイで移動した時も含まれる。そのため総移動距離とした。自転車の走行距離としては、サイコンのデータから1648.7㎞が正しいと思う。一般的に車遍路は1400㎞と言われるが、ボクの場合しまなみ海道を走り、高野山、東寺にも行き、かつあちこちで道に迷って余計に走ったので、1650㎞はまあまあ妥当だと思う。

総獲得標高は同じくRide with GPSから25,640mだが、これも怪しい。例えば7月18日は焼山寺に上った日で、獲得標高は2,067mとなっている。しかし焼山寺は標高700mなので、その他のアップダウンを含めても2,067mにはならないと思う。一方サイコンのデータは1,327mで妥当な感じ。ということでサイコンのデータを合計すると、14,488mだった。こっちのほうが信憑性がある。なぜこんなに誤差が出るのかはわからない。

1日当たりの平均走行距離は、1650㎞を冒頭の24日で平均して68.8㎞/日。準備段階で想定した70㎞/日にわずかに及ばなかった。ばらつきとしては、最大100㎞/日,最小40㎞/日、つまりレンジは60、ということでアバウト70㎞/日±30というところかね。

 

(3)へ続く。

まとめ(1)=参拝手順=

まとめ、として今回の旅を5回にわたって総括する。

今回はその(1)として、札所での参拝手順を記す。100%正しいわけではないが、ボクは以下の手順で参拝した。

 

1)山門から入場する。門をくぐる時は、合掌して一礼する。

とはいうものの、ボクの場合何故か裏口からアクセスするケースが多く、その時は境内を通過して一旦山門から退場し、改めて再入場する。でも白状すると、裏口から入って山門が階段のずっと下のほうにあったとき、ごめんなさいで省略したこともあった。

 

2)手水舎で身を清める。

①右手で柄杓をもって水をすくい左手を洗う。②柄杓を左手に持ち替えて右手を洗う。③再び柄杓を右手に持ち替えて左の手のひらに水を受け、その水で口を漱ぐ。④柄杓を立てて水を柄に流し柄を洗う。を一連の動作で行う。ちなみにボクは口を漱ぐのはフリだけ。本当に口を漱ぎたい人は蛇口から水を取るほうが良いと思う。

3)鐘をつく。

札所によっては鐘をつけない場合があるので要注意。ボクは鐘をつく場合は1回だけ、かつできるだけそ~っとついた。境内だけに響けばよいと思うので。でもこれが難しく、思いのほか強くゴ~~ンってやっちゃうことがあってビビったりした。なお、帰り際に鐘をつくのはタブーなんだそうだ。誤ってついちゃったら、もう一回お参りするしかない。

4)本堂へお参りする。

①右手に蝋燭左手にライターを持ち、蠟燭に火をつける。②右手で蝋燭を蠟燭立てに立てる。なお蝋燭立ては階段状になっているので、奥から立てるのが礼儀だそうだ。

③線香を右手に持ち、自分が立てた蝋燭で線香に火をつける。線香は3本。線香の炎を消すときは息をふ~ってやってはいけない。また線香は線香立ての中央に立てる。手前に立てると後から来る人が危ないからね。これも礼儀。じゃあ、立てた線香の群れがドーナツ状になっていたらどうすんだ?って、野暮なことは考えない。

④賽銭を投げ、納め札を納め、写経を奉納する。それぞれ入れる箱を間違えないよう要注意。

5)本堂で勤行する。

ボクは次の手順で勤行した。

①開経偈←一辺唱える

②懺悔文←スキップ

三帰依文←スキップ

④十善戒←スキップ

⑤発菩提心真言←スキップ

⑥三摩耶戒真言←スキップ

⑦般若心経←一辺唱える

⑧ご本尊の真言←三辺唱える

⑨光明真言←三辺唱える

⑪回向文←一辺唱える

複数のお遍路と同時に勤行する場合は互いに配慮しつつ、がエチケット。ボクは幸か不幸か、団体さんとはダブらなかった。

 

6)大師堂へお参りする。手順は4)と同じ。

 

7)大師堂で勤行する。

基本的に5)と同じだが、⑧はスキップで⑩を追加する。

①開業偈

⑦般若心経

⑨光明真言

⑩大師宝号←三辺唱える

⑪回向文。

 

8)納経所でご納経をいただく。

 

9)合掌一礼して山門を出る。

ボクはこれをしょっちゅう忘れてしまった。反省しきり。

以上がボクが行った参拝手順。次回は旅を総括する。

本編2023年8月12日=教王護国寺‐帰宅=

走行距離55.1㎞(電車含まず)。本日の費用、札所910円、ホテル0円、交通費25,780円、食費3,431円、その他3,070円、合計33,191円。

今日はいよいよ最終日、奈良から京都まで自転車で移動し、その後自転車を畳み、午後は京都から新幹線に乗る。ラッキーなことに帰りの新幹線の切符が取れたのだ。昨夜のカプセルホテルは快適とは言えないものの予想よりはマシだった。さて、今日最初の目的地は東大寺の転外門。

6:50、興福寺の中金堂。ボクが前回訪れた13年前は何もなかったので、最近再建されたのだろう。時間外なので拝観できなかった。

7:00、東大寺転外門。東大寺を訪れる人は多けれど、転外門まで見る人は少ないと思う。

ボクが見たかったのは、この節だらけの柱。節だらけの木はダメだといわれるが、格子などの細い材料はその通りだが、この柱のように大きく使う分にはむしろ味があってよい。これ面白いと思う。

7:15、旧奈良監獄。決して昔を懐かしんでいるわけではなく、国の重要文化財を見学しているのだ。いつかホテルに生まれ変わるそうだ。ホテルになったら収監されてみたい。

9:50、東寺を打つ。これにて成願。
南大門。よくある三間一戸の八脚門だが、そのスケールがでかすぎる。でかすぎて広角でもはみ出すくらい。奥に見えるのは五重塔

南大門から金堂を見る。

さて、今日は3連休の中日とあって混雑している。境内への入場券売り場が行列になっているので並んでいると、突如脇から「南無大師遍照金剛!」と声をかけてきた爺さんがいる。ぎょっとして振り返ると、「・・・。南無大師遍照金剛って返してほしかった。」と小言を言い始めた。あんたは突然ツーって言ったらカーって返せるのかっ? とは言わなかったが、この手合いはどこにでも一人や二人いる面倒臭いタイプの人だと直感した。

さらにこれから回るのかとか、何回目だとか聞いてくる。いよいよ面倒臭い。あなたは何回目ですかって聞いて欲しそうだったが、もちろん聞かずに無視してやった。そもそも「南無大師遍照金剛」は合言葉じゃないんだから、赤の他人に軽々しくあいさつ代わりに言うべきものではない、とボクは考える。

おっと話がそれた。入場料は前回は13年前だったが確か500円だった。今日見たら850円になっていた。まあ仕方がないか。それでも金剛峯寺より安い。と思っていたら、受付のお嬢さんが菅笠姿のボクを見て「お遍路さんですか?そうでしたら団体割引適用で350円です。」と言うではないか。

さすが東寺!実は四国では盗難防止の意味を込めて菅笠はバックパックと一緒に自転車に残していた。でも今日は遍路をアピールしたくて菅笠をかぶったままだった。これが早速奏功したわけだ。菅笠をかぶっていると五月蠅い爺さんも寄ってくるが女神も微笑んでくれる。

また話がそれた。そんなことよりこの金堂、国宝である。入母屋造り平入本瓦葺き。巨大な裳階を付けている。屋根と裳階の間にあるのは向拝だろうか、大きすぎてよくわからない。内陣は、ご本尊の薬師如来座像とその両脇に日光月光菩薩、ご本尊の台座を12神将が支えるという薬師如来ファミリーオールスターキャスト、これらの仏像群は重要文化財

五重塔。高さ約55mは木造の塔としては日本一の高さ。ところで、この塔は逓減が小さく、つまり1層目と5層目の寸法の差が小さく、寸胴のスタイルとなっている。一方奈良法隆寺五重塔は逓減が大きく、つまり1層目と5層目の寸法の差が大きく、とんがり帽子のようなシルエットになっている。好みがあるだろうが、ボクは法隆寺のスタイルが安定感があって好きだ。左の画像は東寺の五重塔、右の画像は法隆寺五重塔(2009年撮影)。

講堂。重要文化財。入母屋造り平入本瓦葺き。この中には弘法大師の手による立体曼荼羅という仏像群が21体安置されている。しかもその内16体が国宝という、まさに圧巻の世界が繰り広げられている。

この中の五大明王像の一つ降三世明王は、大自在天とその妃烏摩を踏みつけにしている。そして大自在天とはヒンズー教の三大神の一人破壊神シヴァのことである。シヴァを踏みつけて仏教に帰依させる降三世明王、恐るべし。

ところで、この立体曼荼羅、ボクのお気に入り角度は、正面向かって左側の出口から振り返ってみる角度である。一番手前に帝釈天、その奥に不動明王、さらにその奥に大日如来が重なって見えるのだが、実はこの3体、奥に行くにつれ寸法が大きくなっている。従って遠く小さく見あるはずが大きく見えてパースが狂った感覚に襲われる。この感覚含めてこの角度大好き。

国宝御影堂、弘法大師がおられる前堂。屋根は檜皮葺。

同じく後堂。ここに国宝の絶対秘仏不動明王がいる。弘法大師高野山に入定するとき、門まで送ったという伝説が残る秘仏である。見ると禍をなすというが、死ぬ前に一度拝顔したいものだ。不動明王の祭壇。そんなことを考えながら読経していたら、脇の引き戸が突然開いて中からお坊さんが出てきた。一瞬不動明王が出てきたのかと思ってビビった。横峰寺と全く同じこのパターンでまた驚かされた。笑ってしまう。

サイクルジャージに押してもらった東寺の御朱印。もう満足感で胸いっぱい。

京都駅。それにしてもよく切符が取れたものだ。あとでわかったことだが、前日の11日がラッシュのピークだったらしい。さらにこの数日後は台風7号の来襲で東海道新幹線が運休したり大幅に遅れたり、その影響が数日に渡って続いた。ということで帰省ラッシュと台風の間隙を縫って一番いいところを抜けてきたわけだ、結果的に。これもボクの日頃の行いがいいからだ、きっと。そういうことにしておく。

東京駅で若い男性からお遍路さんですか?と声を掛けられた。そういえば菅笠をかぶったままだった。そうです通しで打った帰りです、と答えると、彼も歩きで途中まで回ったそうで、凄いですねと言ってくれた。混雑していたのですぐに別れたが、いやいや君もすごいよ途中とはいえ歩き遍路やったんだから、と彼の後ろ姿に向かって言葉を贈る。

27日ぶりの自宅。8月12日、これにてお遍路完了。

次回から、まとめ、と称して今回の旅を総括する。

本編2023年8月11日=高野山奥の院‐金剛峯寺=

走行距離77.0㎞(電車含まず)。本日の費用、札所2,020円、ホテル5,000円、交通費1,170円、食費3,619円、その他530円、合計12,339円。

今日の目標は高野山奥の院、標高約800mまで上る。5:20スタート、ホテルがある紀の川からR24を東に向かって走る。12㎞程東に進みR480を右折するとまもなく上りが始まる。手許のサイコンで勾配10%前後の急勾配だが、四国の遍路転がしを経験したあとでは、10%程度ではどうってことはない。ゆっくり走ればの話だけど。またR480は綺麗に舗装された道路で走りやすい。さらにここはバイクのメッカのようで、早朝にも関わらずバイクがひっきりなしに上っていく。中にはボクに手を振ってくれるライダーもいて、これは気持ちいい。流石高野山のお膝元、お遍路の文化もしっかり浸透しているように思える。
朝日の紀の川紀の川はこの数日後、台風7号による豪雨によって、大幅に増水した濁流となるのだが、今はまだ静かな流れ。

R480は上り始めから標高400mくらいにある峠の100円ショップという木材屋さんまでは上述のとおりきつめの勾配だが、400mに達した後はアップダウンを繰り返す。そして、R370と合流する矢立茶屋の交差点から再び上り始める。しかし今度は勾配5~8%で厳しい坂道ではなく、少しスピードも出せる。ただし交通量は多めになったので注意が必要。そして標高800mを越えたあたりがピークで、そこから少し下るとまもなく大門が見えてくる。
8:00、大門。五間三戸の重層門、高さ約25m。四国最大級である大窪寺の山門が約13mなので、凡そその2倍というわけだ。なお、扁額は3つ見えるが「高」「野」「山」である。

三戸の中央は神仏が通るところなので、人は両端を通ることになっているらしい。大門の脇を抜けてまずは奥の院に向かう。

8:15、奥の院一の橋前。左の四阿の陰に自転車を置き、サンダルに履き替えて参道に入る。SPDシューズはカチャカチャうるさいからね。

左の画像、一の橋前参道入口。中&右の画像、参道。約2㎞このような石畳の参道が続く。しかも両脇には20万基以上の墓石や樹齢千年を越えるといわれる杉の大木が並ぶ。その荘厳さに圧倒される。

以下ボクの心に強く染みた墓所をいくつか紹介する。

伊達政宗墓所。今の仙台市があるのは独眼竜のおかげ。

羽後秋田佐竹家墓所。じゃこてんでおなじみの現職秋田県知事の佐竹氏は、この佐竹氏の末裔だそうな。

毛利家墓所。ひときわ墓石の数が多い。パースが効いて実に見事。

上杉謙信廊。謙信と言えば「毘」の旗印。

本田平八郎忠勝墓所。「家康に過ぎたるもの二つあり 唐のかしらと本田平八」と言われた徳川軍最強無敵の武将。

織田信長墓所。その隣は元の木阿弥で有名な筒井順慶墓所

豊臣家墓所(史跡)。

武田信玄、勝頼墓所。信玄と言えば何といっても「風林火山」。

左の画像、お遍路さんも結構いたりする。右の画像、お坊さんが家族連れと一緒に歩いている。お墓参りだろうか。

奥の院のすごいところは、戦国武将も著名人も一般の人も区別なく墓所が立っているということ。死ねば敵も味方も貴賤もないという考えが明確だ。これ本当に素晴らしいと思う。故人の墓を暴いたり死者を貶めたりするどこぞの国とは全く違う。日本人に生まれて本当に良かったと思う瞬間である。繰り返すが、日本人であることを誇りに思う。

杉の大木の奥に見えるのが奥の院。手前の御廟橋から先は写真撮影が禁じられているので、写真はここまで。

9:30、奥の院を打つ。これにて満願。奥の院参拝後、納経帳のトップページに奥の院御朱印をいただき、さらに白衣にも御朱印をいただいた。納経所の方に「満願おめでとうございます」と言われたときは、この1か月の苦労と努力が報われた瞬間だった。

ところで、上の写真では屋根の一部しか見えないが、お堂は入母屋造り平入の大変大きなお堂で、さらに驚くべきことは、このお堂の縁側を裏側に歩いていくと、真裏に宝形造りのお堂があったことだ。これこそが弘法大師の御廟だと感じた。つまり手前にある入母屋造りの大きなお堂は神社でいうところの拝殿というわけだ。

んっ、まてよ、このスタイルどこかで見たぞ、そうだ21番太龍寺も同様のスタイルだった。そうか、それで太龍寺は西の高野と呼ばれているのか。やっと合点がいった。そう言うことだったのか。

御廟参拝後は来た道を一の橋まで戻るのだが、この往復4㎞には2時間近くかけてゆっくり歩いた。それほど濃密で感動的な時間だった。

10:40、金剛峯寺を打つ。金剛峯寺は、写経を納めるのに入場しなければならず、入場するのに1000円もかかる。さらに根本大堂含む壇上伽藍との共通入場券が欲しければ2500円払えというスタイルだ。ため息が出るようだ。

正門から金剛峯寺を見る。唐破風の奥に弘法大師像がある。

大玄関と小玄関。屋根は基本入母屋造りだが、棟が90度で交差していて複雑。檜皮葺。

蟠龍庭。この石庭は国内で最大級とのこと。

この後根本大塔はスキップした。高野山は12:00に出発。
今朝上ってきた道を下り、矢立茶屋交差点から橋本方向へ進む。標高800mからたぶん50~60mまで一気に下るので気持ちがいいが、一方矢立茶屋から先は道が狭い箇所があったりして緊張しながら走る。九度山を経由して橋本駅に到着。九度山って、あの真田幸村が蟄居していた九度山か、歴史的な地域だなあ。

さて、今夜の宿は奈良市。本当は橿原か天理にして途中飛鳥寺の飛鳥大仏を参拝したかったのだが宿が取れず、やっと見つけたのが奈良だったのだ。世の中夏休みだしね。今日中に奈良まで走るのは無理なので、橋本から奈良まで輪行することにした。1時間40分の電車旅だったが、前半の1時間は口をあんぐりと開けて爆睡だった。流石に旅も終盤で疲労が相当蓄積している。

今夜の宿はTabist Hotel Base Nara。奈良駅から徒歩10分なので、輪行のままチェックインし、袋はフロントに置かせてもらった。そう、今夜はカプセルホテルなのだ。荷物が多いので相当不便だが、カプセルホテルか超高級ホテルしか空いていなかったのだ。旅の最後くらい高級ホテルに泊まりたいとは思っていたが、想定をはるかに超える超高級ホテルしかないので、貧乏性のボクはカプセルホテルにシュリンクしてしまったのだ。明日はいよいよ東寺を参拝し、この旅も完結する。ところで帰りの切符は取れるのだろうか…

8月11日終了。